映画の見た目で重要なひとつの要素に、シネマスコープサイズの存在があります。テレビのワイドスクリーンよりもさらに横長の、あれです。
なんでかわからんが見た目がカッコイイということで、上下をクロップしてそれっぽくした映像を良く見かけます。でも、わざわざ撮った絵の一部を削ってしまう訳で、つまりは狭い絵になってしまうのです。なんでそんなもったいないことをするのか?
実は狭くなるという考え方は間違っていて、本来は特殊なレンズを使って横に広く見せるための手法なのです。
その名も、アナモルフィックレンズ。(Anamorphic Lens)
絵をスクイーズ収録出来るレンズで、同じ面積のフィルム(センサー)で撮れる横幅がぐんと広くなります。
本来、戦争で戦車の視野を広げる為に開発されたレンズだそうで、その技術を1950年代に20世紀フォックスが買い取り、シネマスコープと名付けたそうです。
テレビ人気に対抗するために、横長の画面で圧倒的な広さを魅せる映画をこのレンズで誕生させました。
そこから映画と言えば横に長くてカッコイイと言う印象が付き、デジタル撮影で普通のレンズを使っている場合では上下を切ってそれっぽくしようとなった訳です。
で、実際レンズを使うと何がどう違うのか?下の写真を用意しました。
まず、アナモルフィックでない85mmで撮った場合の写真がこれです。
次に、こちらがアナモルフィック(1.5x)の85mmで撮ったものです。
縦幅は変わらず、横幅がぐんと広くなったのがわかりますか?
「じゃあ50mmで撮って上下を切ればアナモの85mmと同じじゃんバーカ」って話になるかと思えば、そうでもない。アナモルフィックレンズの見た目はただ単に横長になるだけではなく、その歪んだレンズの特性から、普通では見る事の出来ないユニークな特徴が出てきます。
まず気付くのがボケ味。
縦方向にかすむ様にぼけ、点光源は楕円形になります。絵の様な独特な雰囲気になり、これがまた良い味を出します。
そしてレンズの歪み。
光を曲げるレンズの形が原因で、広角レンズでは樽状の歪みが顕著になります。
そしてアナモルフィックレンズの代名詞とも言える、レンズフレア。
と言った感じで、一度ハマりだすと楽しくてしょうがないんです。
とは言ったものの、本物の映画会社が本気で使うレンズです、庶民が買える値段のオモチャではありません。
そこで、普通のレンズの手前に強引にくっつけちゃうタイプのアナモルフィックレンズを我々貧乏人は駆使するのです。
eBayに沢山転がっているので、それをゲットします。
フィルムカメラが主流だった時代に生産された民生機向けのアナモルフィックレンズたちです。値段も質もピンからキリまであるのですが、Sankor, Kowa, Iscoramaあたりは良く知られていると思います。自分はBolex製のを購入しました。
上の映像は人気レンズの撮り比べ動画です。
装着方法はVid-Atlanticなどが製作しているクランプを利用します。
eBayでも”Anamorphic Clamp”などと検索すれば類似商品を見つけられます。
とりあえずこれで撮影できる訳ですが、手放しで楽しめる訳ではありません。貧乏アナモルフィックレンズの問題点を上げてみます。
- ワイドが撮れない‐ものにもよりますが、大体使えるレンズは50mm以上。それよりも広いレンズを使うとケラレが生じます。
- 横に広すぎる‐eBayで見つかるレンズの大半は2x、つまり横に2倍広くなるアナモルフィックレンズです。つまり、縦横比が3.5:1というとんでもない絵になります。1.5xのレンズを見つけるか、画質の劣化に目をつぶって拡大することになります。
- 傾きの調節‐縦横の比率を強引に変えるレンズです、アライメントをしっかりせずに傾いたりしたまま撮影すると編集時に悲鳴を上げることになります。点光源を利用して、レンズフレアが水平に出ていればオッケーです。
- フォーカス‐Iscorama以外のレンズは、普通のレンズとアナモルフィックレンズの双方のフォーカスを合わせる必要があります。ピント合わせに時間がかかるだけでなく、フォローフォーカスはほぼ不可能になると考えてください。
- ローリングシャッター‐絵をつぶすので、すばやく動いた場合こんにゃく現象がさらに目立つ可能性があります。
- デジタル撮影‐一眼レフに装着した場合はもちろんデジタル撮影です。編集時に映像の比率を戻す時、フィルムと同じ考えで横に引き延ばしては画質が劣化してしまいます。なので、縦につぶして比率を元に戻す方法だと1080pをキープでき、さらに解像感が向上します。
そういうことでかなり扱いに困るのですが、それでも撮れる独特な雰囲気の絵で遊びたくて頑張ってしまいます。
とりあえず試しに撮ってみた映像です。お粗末ですが、参考にどうぞ。