シネレンズに挑戦する新参企業たち

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少し前までは映画に使うレンズといえば大体がCookeやZeissと言った大御所でした。しかしここ最近のデジタルシネマ革命で選択肢は増え、手軽に扱える写真レンズを使った制作が当たり前になりました。今まで聞いたことのなかった韓国や香港の企業が格安で面白いレンズを作り始めて、それに目を付けたクリエイターたちが作品に投入します。

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韓国のSamyangがRokinonブランドで欧米に挑んだのは、キヤノンやニコンのそれよりも割安なマニュアル単焦点レンズ、そしてギア付き”なんちゃってシネレンズ“。瞬く間にインディー現場に浸透します。香港のSLR Magicも絞り値f0.95を謳った格安レンズで知名度を上げていきます。

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SLR Magicのめっちゃ明るいレンズ

Samyangなんか当初は3つのブランド名を使い混乱を招く怪しすぎる企業だと思っていたのですが、いつの間にかレンズ選びの選択肢に入るほどに。SLR Magicもアナモルフィック関係の商品で勝負をかけ、いつの間にかある程度の人が認知するメーカーになりました。

しかしここまで盛り上がったものの、やはり写真レンズを使うことは一応邪道であり、現場でのネックになることに変わりありません。フィルター径や胴体の大きさがレンズによって違うので、毎回マットボックスやフォローフォーカスの位置、三脚のバランスを調節し直さなければならず、足手まといになります。

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さて、2010年にZeissが写真レンズをシネレンズ的ハウジングに積み替えたCompact Primeシリーズを発表し、その問題点を解決します。追ってキヤノンも同じコンセプトのシネレンズを投入。そこにSchneiderのXenonも加わるなどして賑やかになります。しかし安く買えるシネレンズとはいえ自称映像作家にとってはまだまだ高嶺の花、手の届きそうで届かない微妙な価格にストレス。

そんな中、去年暮れから今年にかけてちょっと楽しいムーブメントが起き始めます。各社の本格的なシネレンズ市場への参戦です。

Veydra

Veydra

初めてマイクロフォーサーズマウント用に設計されたシネレンズとしてKickstarterで資金を募り、話題となりました。リハウジングで有名なDuclos Lensesさんが関係してるみたいですね。堅牢な金属ボディーとコンパクトさが物欲をそそります。6つのレンズを揃えれば映画撮影に必要な画角をほぼカバーできます。そして価格はなんと1本899ドル!(最ワイドの12mmは1199ドル)かなりお手頃です。

Xeen

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Rokinonから突如発表されたシネレンズ。Compact Primeを意識したデザインで、コンセプトも同じく写真レンズを新ボディにリハウジングしたもの。フルフレームのセンサーにも対応しています。レンズ群は既存のものと同じですが、コーティングの方法を新しくして高画質化を図ったそうです。価格は一本2500ドル。ちょっと高めですが、競合製品が4000~5000ドル台なので、約半分ほどの値段で揃えることができます。今のところ24、50、85mmだけのラインナップですが、徐々に増やしていく予定とのこと。

「SLR Magic Anamorphic Lens」

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SLR Magicが勇気を出して2xアナモルフィックレンズと、16:9画角で良い感じのアスペクト比になる1.33xアナモルフィックレンズを同時に発表。GH4が4:3収録に対応したことで、そこを狙ってきた感じですね。すでに同社が販売しているアナモーフォットとレンジファインダー、そしてレンズを一体化させた感じのデザインです。値段は2500ドルから3000ドルを予定しているそうです。デモ映像はまだ無いようなので、インタビューを乗っけておきます。

Celere HS

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撮影監督が自ら自分にとってパーフェクトなレンズを作ろうと考えて立ち上げたらしいこのプロジェクト。ライカのボケ足、クックレンズのコントラストなど、様々なレンズメーカーの特性を一つのレンズにぶち込んでみたそう。特筆すべきはそのレンズの重さ。全てのレンズが同じ重量になるように設計されているので、ステディカムやギンバルを使う場合にレンズ交換をしてもバランスを取り直す必要が無くなるとか。まあそんなこと言ってどうせ微調整はしなきゃいけないのでしょうが、それでもかなりの時間短縮にはなります。この時代に新しくレンズ群を設計する理由として結構大事なポイントの一つになると思います。一本3000ドルほどになる予定です。

このように、仕事で使えそうなシネレンズを破産しない値段で個人が手に入れられる、もう夢の様な事態です。そして何とも悲しいことに、この市場はもう完全に海外組の縄張りになってしまった感じです。シグマとかが何か出してくれれば、ちょっと割高でも買うと思うんですけどね。日本企業がこのマーケットに価値を見いだせないでいる間に、僕もプライドを捨てて韓国のレンズを買ってしまいそうです。